王国―その1 アンドロメダ・ハイツ―Freeze wall

2013/02/27

氷雪王の求婚~春にとけゆくものの名は~

 ライトノベルって、単発だろうと思って読んでも実はシリーズものの1巻目だったってことが多いように思いますが、この物語は少なくともキレイに完結している印象がありました。それだけでも「お?」と目を引いたものがありますが、それ以上に、潔い結末にすっきりした読後感を感じたものです。
 「氷雪王の求婚~春にとけゆくものの名は~」。

 今回は、実の父親すらも殺し氷雪王と呼ばれる皇帝エドリックと、彼の元に政略で嫁いだアイリス・ティティス・ローレンシアの物語。
 アイリスは下級貴族の娘なのですが、きちんと皇后の役割や振舞いをしながらもエドリック帝と仲良くしようとし、涙ぐましい努力を続けていきます。少しずつエドリック帝が絆されていく様は、読んでいて楽しいですね。

 しかしそのせいで、彼は帝位はおろか自らの命をも失うことになるわけです。物語の最後で政変が起き、異端の者としてエドリック帝が断首されたところで物語は終わります。
 実は上手く逃げていたとか、見事に反対勢力を打倒したとかではなく、ちゃんと彼は皇帝として亡くなるのです。その潔さに、惚れぼれします。

 そもそもこの物語、歴史家が紡ぐ昔語りのようにして綴られています。ところどころに歴史家の目線から開設のような文章が差し挟まれており、それがまた妙に面白いのですよ。既に終わった出来事を物語として読んでいく、不思議な作業のような感覚が印象的です。
 そして冒頭に綴られた、アイリス皇后の遺体がしっかりと握りしめていた瓶についても、作中でどういうものだったかが語られるわけです。思わず冒頭に戻りましたものね。ああ、あれはこれだったのかと。

 もしかしたら2巻目以降も存在するのかもしれませんが、それにしてもエドリック帝とアイリス妃の物語はこの一冊で終わるわけです。


氷雪王の求婚 ~春にとけゆくものの名は~
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misano414 at 06:00│書籍/小説(長編) 
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