「光の帝国 常野物語」――ここに登場する人たちは、普通の人達とは少し違う力を持った人たちばかり。

 それは、あらゆる知識や記憶を際限なく吸収し”しまって”いられる力であったり、長寿であったり、遠くの物事を聞く力であったり、少し先の未来を視る力であったり。きわめて普通の世界でありながら、身近に不思議なことは実はごく当たり前に存在しているのではないかと感じてしまいます。
 一つ一つの物語は、連作短編のようで、他の話に登場した脇役が主人公になっていたり、前の物語に登場した主人公のその後の姿を垣間見られたりと、アルバムをめくっているかのような楽しみがあります。

 しかしながら、少しずつ時は動いています。大きな何かのために、常野の人々が徐々に集まりつつある様子は、その先に何があるのかわくわくしてきます。
 しかしながら、この本では、中心となるのが矢多部亜紀子であるらしい、ということしか判りません。この物語に続編があればそれらの謎も多少は解明されるのかもしれませんけれど。

 ……もしかして、続編は既に存在するのでしょうか。

 全10編の短編が収録されていますが、一番のお気に入りは「草取り」です。
 確かに存在するのに、よくよく気を付けていないと気付けない草の存在。草が象徴する異変。それは放っておいてもいいのに、気付いてしまったから放っておけないと、淡々と草取りに従事する男。それを取材する主人公。
 ビルの清掃員をそもそもあまり見かけない田舎に暮らしていますけれど、もし都会には本当にビルの清掃員がたくさんいるのであれば、それはやはり目に見えない何かと戦っていたりするのでしょうか。
 現実と紙一重の異世界、しかしてどちらが異世界かは誰が決められることでもありますまい。


光の帝国 常野物語 (常野物語)
  • 恩田陸
  • 集英社
  • 1785円
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