私の好きなもの。

ゲーム、書籍、食べ物……何でもあり、かつ、プラス評価のみのレビューブログです。更新は毎週水曜日(と、たまに日曜日)。

カテゴリ: 書籍/小説(短編)

 物語や伝承、童話によく登場する魔女に焦点を当てた一冊「魔女は真昼に夢を織る」。前半が短編小説(3編)、後半が魔女に関する評論文となっています。

 前半の小説が面白かったです。3編が3編とも。
 「魔女の森」。永遠の若さを願ったがゆえに異形の魔女と化した美少女のお話です。長く生きたがゆえに人らしい感情を失っている彼女・マーリンが、捨てられた赤子を戯れに拾い育てたのがまず意外。赤子は二人ともそれぞれの理由でマーリンから捨てられるわけですが、この赤子が彼女の呪いを解くきっかけになります。
 感情を失いながらもなぜ赤子を拾ったのか、そして普通の人間に育っているのを見るに、実はマーリンは人らしさを失っていないのではないか、とも思うのです。二人の生活、ちょっと気になります。

 「氷姫」。純粋で優しく育った末姫が、裏切りを受け魔物に魂を売り渡し、その見返りとして最強の女王になるというお話。
 このお話でも、末姫の呪いを解いたのはやっぱり彼女が拾った赤子なんですよね。魔女も女性である以上、母親、もしくは母性というものと切り離せないという暗示?それとも、魔なるものの対として、純粋と思われる子供を挙げているだけ?

 で、最後の「ガラスの靴」。これがまた傑作!
 シンデレラのお話を、彼女のいじわるな継姉の視点で綴るというもの。この継姉、まずはそこまでシンデレラをいじめていない、と前置きした上で、シンデレラとの思い出を語ってくれます。面白かったのは、シンデレラに登場する魔女は、このお話では継姉なんです。しかも魔法使ってないと。
 シンデレラ自体は純粋すぎてときに危うい少女として継姉は捉えているんですが、生まれ持った純粋な美貌を妬みつつ、何だかんだいってシンデレラを可愛がっている継姉の様子が見て取れて、とても素敵なお話でした。

 後半の評論部分は、様々な魔女・魔法が登場する作品を挙げつつ論じてあります。
 その中にハリー・ポッターシリーズがあるのが、なんだか現代だなあと思いました。



魔女は真昼に夢を織る
  • 松本祐子
  • 聖学院大学出版会
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 小さなフランス料理店を舞台とした連作短編「タルト・タタンの夢」を紹介します。

 主な登場人物は、こだわりのある料理長、料理長の腕にほれ込んで働いているシェフ、主人公兼ウェイター、ソムリエの4人。ここに各章ごとにお客さんが加わって、様々な物語が綴られていきます。
 主要登場人物は4人なので、舞台を簡単に把握できる点は魅力的です。いえ、いっぱいいてもいいんですけど別に。

 ミステリー小説に分類されるようで、ちょっとした謎解き要素もあります。尤も、料理長や主人公が大体解いてしまうのですが……。
 それより何より、登場する料理がいちいち美味しそうで惹かれます。グルメ本見るよりこういう物語で料理の描写を読む方が、私にとってはよりリアルに美味しさが感じられるので不思議でした。フランス料理店ということで、私の知識不足の分もあるのですが、たとえば鴨のカスレ、この本を手に取らなければ知ることはなかったのだろうなと思います。

 しかし本当に料理の美味しそうなこと!
 実際に食べたことがないと描写できないだろうなあと思うほど。それに、こういうこじゃれた料理店、でも構えなくても十分美味しいものを食べさせてくれる場所、身近にもあればなあと思う次第です。


タルト・タタンの夢
  • 近藤史恵
  • 東京創元社
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 結婚をテーマとした物語を集めた短編集です。「結婚貧乏」。中には『ハリー・ポッター』シリーズの訳者として(私の中では有名な)松本侑子氏の作品もあります。あの人小説なんて書いてたんですね。

 タイトルから予想するに、結婚にまつわる失敗を描いた物語ばかりなのだろうと踏んでいましたが、実際はそうでもありませんでした。はたから見れば失敗なのかもしれないけれど本人たちは幸せそうであったり、あるいは失敗の中にも光明が確かに見えるものであったり。
 これを読んで結婚に憧れを持つことは難しいけれど、代わりに結婚は意外と恐れるものでもないのだろうと前向きに捉えられる気がしました。

 でも結婚してから読んだ方が楽しいかも?

 一番好きなのは、タイトルは失念しましたが、穏やかで優しい医者と結婚した女のハナシ。
 優しいけれどセックスは求めてこない旦那を持つ主人公と、粗暴だけどセックスは求めてくる旦那を持つ友人の対比。どっちがどうというわけでもないけれど、その差異を面白いと思って読んでいました。どっちも実際にいそうな男性像だとも感じましたが。


結婚貧乏
  • 平安寿子_::_春口裕子_::_三浦しをん_::_内藤みか_::_宇佐美游
  • 幻冬舎
  • 1512円
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 今回取り上げる「サファイア」は宝石が登場する短編集で、殆どの物語は独立しています。よって、好きな宝石から読んでも構いませんが、私は始めから読みました。気に入った物語もそうでないものもありますが、特に好きなのは次の3つ。

 ルビー。誰でも彼でも受け入れてしまう鷹揚な老夫婦と、一緒に暮らす妹、その家に3年ぶりに帰ってきた姉の話。家の裏の畑のさらに裏には特殊な事情を持つ老人保健施設があり、そこに暮らす”おいちゃん”とのハートフルな交流が紡がれています。
 もうほんと、この交流が好きで好きで。
 実はおいちゃんにはとんでもない秘密があるのだけど、それを知った上で今の関係を崩さずに続けていこうと、お互いに決意している姉妹、やっぱりあの夫婦の娘さんなんだなあとも思います。

 次に表題作でもあるサファイア、そしてルビー。
 この2編、この本の中では唯一の連作となっています。はじめそれに気付きませんでした。さらに、ガーネットは、『墓標』という作中作がどれぐらい陰湿で評判が悪くて、それでも人を引き付ける何かを持っているせいで30万部売り上げたというくだりから始まります。まさかそれが、サファイアの主人公が書いた作品だなんて夢にも思いませんでした。

 そしてサファイアで主人公の彼氏の命を奪ったかもしれない3人の女のうち、2人からの答えがガーネットでは届くのです。長い長い時間を超えて主人公の「おねだり」は救われたし、3人のうち2人の女もそれぞれ救われた。その結果をただただ嬉しく思うのです。そしてサファイアでのチョイ役がまさかガーネットでは主要人物たりえるとは!
 ああそんな人いたなと、確かにいたなと、まさかの伏線でした。


サファイア
  • 湊かなえ
  • 角川春樹事務所
  • 1575円
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 子供の頃、いつの間にかやってきて、成長とともにいつの間にかなくなる妙な生き物たちとの思い出を静かに話すという物語です。「パレード」。
 舞台自体は動かないのですが、それはさておき、物語本文よりもあとがきの方が印象的でした。

 というのもこの物語、『センセイの鞄』のスピンアウトなのです。

 著者いわく、世の中に起きる事件や事故と同じように、物語も、書き終わってしまえばその世界はそこで終わり、古くなっていきます。しかし本当は、その世界の中でとはいえ、登場人物たちは生きており、世界も続いている。一度完成させた物語にも、書ききれなかったエピソードや出来事が起きているはずだと。『パレード』は『センセイの鞄』の主人公が、センセイの家に遊びに行ったある一日を綴っているというわけです。

 もともと連作短編が好きなので、一つの舞台で違うエピソードを綴るという行動自体が好きです。

 どこかに移動する物語を集めた短編集です。「あなたと、どこかへ。 eight short stories
 参加している作家は、吉田修一、角田光代、谷村志穂など総勢8人合計8編。どれもこれも好きなんですが、特に好きなのは次の二つです。

 まず、吉村修一「乙女座の夫と蠍座の妻」。
 時間にきっちりしていないと気がすまない主人公(乙女座の夫)と、周りを気にせずマイペースに生きている妻の物語ですが、この妻がまた可愛いというか憎めないというか。きっと主人公からすれば苛々することもあるのでしょうが、それでもたまに妻にのせられているあたり、二人仲良しだよなあと思ったり。
 結局、妻とは約束して行動しないようにして、こちらの行動に気が向けば妻が現れるといった感じに。ほんと、マイペースでふらりと行動する妻が可愛くてしょうがないのです。
 それに、ちょうど私の彼氏が乙女座なので、主人公のことどう思う?と読ませてみたら多々共感する点があるようで。
 この物語をきっかけに私も意外とマイペースで彼氏がそれなりに楽しい苦労をしていることを知れて面白かったのでした。

 次に石田衣良「本を読む旅」。
 これは、もう単純に憧れます。主人公は仕事が煮詰まってきたりすると時間を取って本を読むためだけの旅行に出掛けるのですが、7~8冊、買ってストックしておいた本を選び出して持って行って、ひたすら読書に過ごすなんて、なんと素晴らしい旅なのでしょうか!自分でもやってみたいと思いましたもの。
 そうそう、読書とは関係ありませんが「自動車はのってしまえば、室内しか見えないのである」と、自動車の外見やフォルム、種類より中の居心地の良さを優先させる考え方にはああ確かにと納得しました。


あなたと、どこかへ。 eight short stories
  • 片岡義男_::_甘糟りり子_::_林望_::_谷村志穂_::_角田光代_::_石田衣良_::_吉田修一_::_川上弘美
  • 文藝春秋
  • 1100円
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 香りをテーマにした短編集というか、アンソロジーです。「あなたに大切な香りの記憶はありますか?」。
 全8編収録されており、それぞれ書き手も異なります。石田良、重松清、小池真理子……割と有名どころが揃っているといった印象を受けましたが、さて。

 私が一番好きなのは角田光代「父とガムと彼女」。
 子供の頃、一時的に家政婦として面倒を見てくれた”彼女”初子さん。彼女と主人公と父の間にあった不思議なもう一つの家族という感覚から、やや成長した主人公は彼女が父の愛人ではなかったのかと疑い始めます。
 しかしそれを思い切って母にぶつけると、母は完全に否定。であれば自分の勘違いだったのかと、彼女と父に申し訳なく思っていた主人公だけれど、最終的にやっぱり彼女は父の愛人だったのではと気付いてしまいます。それが、父が亡くなり、その遺影の前で抱き合って泣く母と彼女を見つけたから。
 それを見て直感的に彼女が父の愛人だったと見抜くあたり、女の勘って怖いなあと思う一方で、確かにそういうこと判っちゃうよねえとも思うし、母と彼女の間の関係も気になりました。

 テーマが香りでありながら、香りとは関係のないところで気になった物語でした。

 そもそも香りって、強い力を持つと思っています。
 言語化することが難しい直感的な刺激だからこそ、思い出や、自分の意識と関係なくある印象を残す。香りで相手の感情をある程度縛ることも可能だし、香りがきっかけで忘れていた思い出が蘇ってきたり。
 それは香りでなくても、音楽でも言葉でも味でもよいのでしょうけれど、香りが一番そういう力を持っているのではと思うのです。
 だから香水は憧れ。人為的な香りを扱える大人になれればなと思いますが、そうでなくても、香りの重要性を知りながら暮らしているだけでも十分に日々は豊かに彩られてゆくのでしょう。


あなたに大切な香りの記憶はありますか?
  • 阿川佐和子_::_角田光代_::_熊谷達也_::_小池真理子_::_石田衣良
  • 文藝春秋
  • 1000円
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 女性の扱いが妙に上手いというか、女性を手のひらで転がして楽しんでいるような二人の青年(今野さんと吾妻さん)の女性遍歴を交互に綴った短編集です。「愛があるから大丈夫」。

 二人とも少しずつ成長しており、はじめは大学生だった二人が、それぞれ就職したり会社を辞めたり専門学校に入学したりします。

 どの話でも、登場する女性は滑稽なものとして描かれます。痛々しい言動や行動、考え方がこれでもかといったふうに出てきます。あくまで今野さんと吾妻さんの視線を借りてのことなので、男性の独りよがりな部分もあるのでしょうけれど、女という生き物がちょっと嫌いになりそうです。これがまた、どれもこれも身の回りにいそうな人ばかりなのです。
 もちろん中には、二人を手玉に取るような素敵な美女や大人の女も登場しますけれど、大体は二人にいいようにやられています。

 疑問に思う点は、これは男性目線から見た女の現実なのか、女性目線から見た女の現実なのか。
 女に対して辛辣な印象を受けたので、女性から見た……かもしれません。ところで作者って男性のような名前ですけど、実際どうなのでしょうね。

 さて、自由に女を楽しむ二人の青年に待ち受けていた結末は、釈然としない結婚でした。

 二人とも同じ結果に落ち着くあたり、よい結末だと思います。ただ、唐突過ぎる印象は受けましたけれどね。


愛があるから大丈夫
  • 松久淳
  • 主婦の友社
  • 1155円
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 「光の帝国 常野物語」――ここに登場する人たちは、普通の人達とは少し違う力を持った人たちばかり。

 それは、あらゆる知識や記憶を際限なく吸収し”しまって”いられる力であったり、長寿であったり、遠くの物事を聞く力であったり、少し先の未来を視る力であったり。きわめて普通の世界でありながら、身近に不思議なことは実はごく当たり前に存在しているのではないかと感じてしまいます。
 一つ一つの物語は、連作短編のようで、他の話に登場した脇役が主人公になっていたり、前の物語に登場した主人公のその後の姿を垣間見られたりと、アルバムをめくっているかのような楽しみがあります。

 しかしながら、少しずつ時は動いています。大きな何かのために、常野の人々が徐々に集まりつつある様子は、その先に何があるのかわくわくしてきます。
 しかしながら、この本では、中心となるのが矢多部亜紀子であるらしい、ということしか判りません。この物語に続編があればそれらの謎も多少は解明されるのかもしれませんけれど。

 ……もしかして、続編は既に存在するのでしょうか。

 全10編の短編が収録されていますが、一番のお気に入りは「草取り」です。
 確かに存在するのに、よくよく気を付けていないと気付けない草の存在。草が象徴する異変。それは放っておいてもいいのに、気付いてしまったから放っておけないと、淡々と草取りに従事する男。それを取材する主人公。
 ビルの清掃員をそもそもあまり見かけない田舎に暮らしていますけれど、もし都会には本当にビルの清掃員がたくさんいるのであれば、それはやはり目に見えない何かと戦っていたりするのでしょうか。
 現実と紙一重の異世界、しかしてどちらが異世界かは誰が決められることでもありますまい。


光の帝国 常野物語 (常野物語)
  • 恩田陸
  • 集英社
  • 1785円
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 思春期の日常風景を切り取った物語が3編収録されています「晴れた朝それとも雨の夜」。

 『バースデーパイ』と『ホタルの基地』は、それぞれ男の子が主人公に向ける真っ直ぐな想いをまぶしく感じます。中学生の恋っていうと、どうも子供の遊びの延長のような印象があったのですが、なかなかどうして。当事者にとっては本物だし、真剣だし、何より私自身も中学生のころの恋を今の今まで続けているクチなのでした。特に『バースデーパイ』で耕平が言った嘘は好感が持てます。

 それらと全く違うように感じたのが『沢山さんの恋』。これ、恋が二重構成なんです。
 川島に惹かれていく主人公は、川島を知っている沢山さんとも仲良くなる。物静かな彼女に、主人公は川島に関して気付いたことや知ったことを話していく。
 実はかつて川島に惹かれ、歪んだ想いで”負け”てしまった沢山さんは、主人公の話を通して、目と耳を通して再び恋をしていく。主人公も、常に川島を考えるには沢山さんの存在を意識してしまいます。そのせいで、川島との距離が開いてしまって。
 最終的に沢山さんを切り離して、自分だけの恋をしていこうという結論を得ます。

 ところで川島のこの言葉が印象的でした。

ジワジワと兵糧攻めの城みたいでさ……後どのくらい持ちこたえられるだろうって……



晴れた朝それとも雨の夜
  • 泉啓子
  • 指定なし
  • 1470円
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