書籍/小説(短編)
2013/05/04
花のようなひと
必ず花が登場する短編を27遍収録した一冊です。「花のようなひと」。
短編というか、掌編といった方が正しいぐらい短い物語です。ページにして2-3p。どうやら『PHPカラット』という冊子に連載されていたようで、ただし27編のうち「ペットボトル」だけは本書の書き下ろしとなっています。
花を絡めながら短い中に色々な人間模様が詰め込まれている感じがして、どの話も好きです。
たとえば「バラの刺」では、些細なきっかけでそれまで敬遠していた先輩を身近に感じるようになります。苦手と感じるということは、それだけその人を見ているわけですから、小さなきっかけで感情が親愛に変わる可能性ってあるんですよね。
ドラマティックなその動きは、プラスの感情からマイナスに展開することだってあるのですが、この物語ではプラスに動きます。
「ペットボトル」では、繰り返されるルーチンワークの中で、ペットボトルが静かな存在感を放っています。世の中の専業主婦の苦労は判らないけれど、その残った形から何かまったく別の物を想像しようとする主人公。
定型の生活の中で非定型のものを思い浮かべようとしている様子は正反対だけどやはりドラマティックだと感じます。
花のようなひと
短編というか、掌編といった方が正しいぐらい短い物語です。ページにして2-3p。どうやら『PHPカラット』という冊子に連載されていたようで、ただし27編のうち「ペットボトル」だけは本書の書き下ろしとなっています。
花を絡めながら短い中に色々な人間模様が詰め込まれている感じがして、どの話も好きです。
たとえば「バラの刺」では、些細なきっかけでそれまで敬遠していた先輩を身近に感じるようになります。苦手と感じるということは、それだけその人を見ているわけですから、小さなきっかけで感情が親愛に変わる可能性ってあるんですよね。
ドラマティックなその動きは、プラスの感情からマイナスに展開することだってあるのですが、この物語ではプラスに動きます。
「ペットボトル」では、繰り返されるルーチンワークの中で、ペットボトルが静かな存在感を放っています。世の中の専業主婦の苦労は判らないけれど、その残った形から何かまったく別の物を想像しようとする主人公。
定型の生活の中で非定型のものを思い浮かべようとしている様子は正反対だけどやはりドラマティックだと感じます。
花のようなひと
- 佐藤正午
- 岩波書店
- 1890円
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2013/05/03
クリスマス・ストーリーズ
クリスマスを題材とした短編集で、殆どは恋の物語です。「クリスマス・ストーリーズ」。
少なくとも日本ではクリスマスは恋の季節ですものね。「セブンティーン」「私が私であるための」など全6編が収録されており、作家もそれぞれ異なります。短編集というよりはアンソロジーと表現した方がしっくりくるかもしれません。
一番好きなのは盛田隆二「ふたりのルール」。
職場の上司と5年間にわたり不倫を続けているOLの物語ですが、どろどろした部分はなく、むしろ、このいびつな恋を続けていくために色々我慢をしながらも白石を心待ちにしている主人公がいじらしく思えてきます。一途な恋心は面映ゆくもあり。
また、白石も主人公を気に入っており、相思相愛だから恋愛そのものはとても穏やかです。たまたま好きになった相手が妻子持ちであったというだけで。
静かに穏やかに過ぎる不安定な恋の、何と切ないことか。
魅力的だとは思わないけれど、ルールを作りそれを守り自制する主人公の気持ちに何故か共感出来てしまうのです。印象深く感じたのもそのせいかもしれません。
冷静に考えれば、妻子ありながら職場の若い女の子に手を出すなんてどうかと思うんですが、せめて物語の中でだけ、そういうの関係なく純粋な恋心が続いていてもいいよねとも思います。
他に、奥田英朗「セブンティーン」で綴られる母親の苦悩と、最終的に許し認めるその決断も、好きです。
クリスマス・ストーリーズ
少なくとも日本ではクリスマスは恋の季節ですものね。「セブンティーン」「私が私であるための」など全6編が収録されており、作家もそれぞれ異なります。短編集というよりはアンソロジーと表現した方がしっくりくるかもしれません。
一番好きなのは盛田隆二「ふたりのルール」。
職場の上司と5年間にわたり不倫を続けているOLの物語ですが、どろどろした部分はなく、むしろ、このいびつな恋を続けていくために色々我慢をしながらも白石を心待ちにしている主人公がいじらしく思えてきます。一途な恋心は面映ゆくもあり。
また、白石も主人公を気に入っており、相思相愛だから恋愛そのものはとても穏やかです。たまたま好きになった相手が妻子持ちであったというだけで。
静かに穏やかに過ぎる不安定な恋の、何と切ないことか。
魅力的だとは思わないけれど、ルールを作りそれを守り自制する主人公の気持ちに何故か共感出来てしまうのです。印象深く感じたのもそのせいかもしれません。
冷静に考えれば、妻子ありながら職場の若い女の子に手を出すなんてどうかと思うんですが、せめて物語の中でだけ、そういうの関係なく純粋な恋心が続いていてもいいよねとも思います。
他に、奥田英朗「セブンティーン」で綴られる母親の苦悩と、最終的に許し認めるその決断も、好きです。
クリスマス・ストーリーズ
- 盛田隆二
- 角川書店
- 1575円
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2013/05/02
神様2011
ある日マンションにやってきた人の文化を理解し人の言葉を話す礼儀正しい熊と、主人公が一緒に沢にハイキングに出掛けるというお話です。しかして、2011年の東日本大震災を受けて加筆修正された「神さま2011」が本の後半に掲載されています。
そんな、「神様 2011」。
これを読んで思ったことは、放射線汚染などの非日常も、日常になっていくのだろうなと。
私は東日本大震災について当事者でも何でもありませんけれど、この物語を読んで思ったのは、どんな変化があっても人は生きていくし、世界はなくならないし、それぞれの範囲内で妥協して毎日を生きていくということ。日常になっていくということ。
身近における変化といえば人や町との別れが思い浮かびます。
人と別れることは辛いことですが、やがてそれに慣れてしまう。時間は残酷だけれど、同時に祝福でもあるのかなと。
この物語は、そういうことをつらつらと考えるきっかけになりました。
そういうことはさておいて、登場する熊はとても魅力的です。礼儀正しく、何故か古い日本の文化を愛しており、魚を獲る腕も一級。『神様』においては獲った魚は開いて干して食べ物としてのお土産に、『神様2011』においては開いて干して思い出のお土産に、それぞれ姿を変えていくのです。
神様 2011
そんな、「神様 2011」。
これを読んで思ったことは、放射線汚染などの非日常も、日常になっていくのだろうなと。
私は東日本大震災について当事者でも何でもありませんけれど、この物語を読んで思ったのは、どんな変化があっても人は生きていくし、世界はなくならないし、それぞれの範囲内で妥協して毎日を生きていくということ。日常になっていくということ。
身近における変化といえば人や町との別れが思い浮かびます。
人と別れることは辛いことですが、やがてそれに慣れてしまう。時間は残酷だけれど、同時に祝福でもあるのかなと。
この物語は、そういうことをつらつらと考えるきっかけになりました。
そういうことはさておいて、登場する熊はとても魅力的です。礼儀正しく、何故か古い日本の文化を愛しており、魚を獲る腕も一級。『神様』においては獲った魚は開いて干して食べ物としてのお土産に、『神様2011』においては開いて干して思い出のお土産に、それぞれ姿を変えていくのです。
神様 2011
- 川上弘美
- 講談社
- 840円
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2013/05/01
夕暮れのマグノリア
灯子という少女(おそらく中学生)を主人公にした連作短編です。
「夕暮れのマグノリア」。
テーマは、おそらく「見えないからといっていないとは限らない」もしくは「世界は見えるものと見えないものでできている」。見えないもの、異世界のものが現実とたまに混ざり合いながら、日常が綴られていきます。
毎回、灯子が主人公でありながら、キーとなる登場人物は異なる人たち。
たとえば『真実のハート』では千夏が、『雪幽霊』ではきぃちゃんがといったふうに。連作短編なので、今までの物語に登場した人がキーになったり、逆にキーになった人が当たり前のようにそれ以後の話の中で日常に登場したりします。
新しい友達の凛と、古くからの友達のきぃちゃんが、灯子にとっての親友になる『マーブルクッキー』が一番好きな物語です。
『マーブルクッキー』のキーキャラクターはおばちゃんなんですが、その実、書名にもあるマグノリアなのではないかと。読む前はマグノリアって聖母マリアの敬称の一つだと勘違いしていたのですが、実際は木の名前でした。
とうの昔に亡くなり、目には見えない夫からの愛に包まれて守られているというおばちゃん。何だかそういうの、素敵だと感じます。そう信じられるだけの強さもだし、マグノリアに仮託された想いもまた。
ところで、全編通して、思春期のころにありがちな「仮想敵」の概念が登場します。
ちょっとだけ違うことをしたために、周囲から共通して敵意をむき出しにされること。はじめ、凛がその標的となり、『雪幽霊』の頃にはみんなとうまくやっていたはずのきぃちゃんが標的に。
しかしながら灯子本人は、それはフルーツバスケットにおける椅子に座れない人のようなもので、椅子は常に足りないけれど、いつも座れないわけではないと捉えています。
仮想敵をどうこうではなく、そういうふうに受け入れている。その捉え方は新鮮であると同時に、生きるってそんなもんだよなあと、妙にリアルめいたものを感じました。
夕暮れのマグノリア
「夕暮れのマグノリア」。
テーマは、おそらく「見えないからといっていないとは限らない」もしくは「世界は見えるものと見えないものでできている」。見えないもの、異世界のものが現実とたまに混ざり合いながら、日常が綴られていきます。
毎回、灯子が主人公でありながら、キーとなる登場人物は異なる人たち。
たとえば『真実のハート』では千夏が、『雪幽霊』ではきぃちゃんがといったふうに。連作短編なので、今までの物語に登場した人がキーになったり、逆にキーになった人が当たり前のようにそれ以後の話の中で日常に登場したりします。
新しい友達の凛と、古くからの友達のきぃちゃんが、灯子にとっての親友になる『マーブルクッキー』が一番好きな物語です。
『マーブルクッキー』のキーキャラクターはおばちゃんなんですが、その実、書名にもあるマグノリアなのではないかと。読む前はマグノリアって聖母マリアの敬称の一つだと勘違いしていたのですが、実際は木の名前でした。
とうの昔に亡くなり、目には見えない夫からの愛に包まれて守られているというおばちゃん。何だかそういうの、素敵だと感じます。そう信じられるだけの強さもだし、マグノリアに仮託された想いもまた。
ところで、全編通して、思春期のころにありがちな「仮想敵」の概念が登場します。
ちょっとだけ違うことをしたために、周囲から共通して敵意をむき出しにされること。はじめ、凛がその標的となり、『雪幽霊』の頃にはみんなとうまくやっていたはずのきぃちゃんが標的に。
しかしながら灯子本人は、それはフルーツバスケットにおける椅子に座れない人のようなもので、椅子は常に足りないけれど、いつも座れないわけではないと捉えています。
仮想敵をどうこうではなく、そういうふうに受け入れている。その捉え方は新鮮であると同時に、生きるってそんなもんだよなあと、妙にリアルめいたものを感じました。
夕暮れのマグノリア
- 安東みきえ
- 講談社
- 1365円
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2013/04/28
オトラント城/崇高と美の起源
今回ご紹介する「オトラント城/崇高と美の起源 (英国十八世紀文学叢書)」。まったく別の物語が1冊に収録されていますが、私が読んだのは前半『オトラント城』のみです。
オトラント城の城主の息子が、婚礼の日にいきなり亡くなったことから始まるどたばた劇です。
どたばたと表現しましたが、コミカルな要素は一切ありません。権謀術数の世界が綴られ、自らの野心のために正気を失ったかのように見えるマンフレッドの行動が際立ちます。男子の後継ぎを欲しがるばかりに、息子に娶せようとしていたイサベラ姫に強引に関係を迫ったり、そのために長年自分に尽くしてきた妃を離縁しようとしたり。
とにかくマンフレッドはパワフルです。始終怒鳴っています。読んでいるこちらまで何だか焦ってしまいます。ちっとも心休まる暇なかったのですが、実際そういう世界を綴っているので表現としては正しいのでしょう。
同じぐらいパワフルであり、母親の思慮深さも受け継いでいるのが、マンフレッドの娘マチルダ。
マチルダは強烈な魅力を以て周囲を魅了していくのですが……。
本当に、どうなるのかまったく先が見えませんでした。
はじめはイサベラの危機にはらはらし、続いて名もなき青年の器に驚き、マチルダの動きから目を離せない。あっという間に読み切ってしまいます。
「女は天と夫(もしくは親)に服するもの」という妃の考え方に「そういう時代、そういう世界なのだな」と思ったり。昔の中国でしたっけ、生まれては父に従い、嫁しては夫に従い、老いては息子に従うのが女だって考え方。
オトラント城の舞台はヨーロッパにある架空の城ですが、どこも女の扱いってそんなもんなんだなあとも思います。
[第4巻 ゴシック] オトラント城 / 崇高と美の起源 (英国十八世紀文学叢書)
オトラント城の城主の息子が、婚礼の日にいきなり亡くなったことから始まるどたばた劇です。
どたばたと表現しましたが、コミカルな要素は一切ありません。権謀術数の世界が綴られ、自らの野心のために正気を失ったかのように見えるマンフレッドの行動が際立ちます。男子の後継ぎを欲しがるばかりに、息子に娶せようとしていたイサベラ姫に強引に関係を迫ったり、そのために長年自分に尽くしてきた妃を離縁しようとしたり。
とにかくマンフレッドはパワフルです。始終怒鳴っています。読んでいるこちらまで何だか焦ってしまいます。ちっとも心休まる暇なかったのですが、実際そういう世界を綴っているので表現としては正しいのでしょう。
同じぐらいパワフルであり、母親の思慮深さも受け継いでいるのが、マンフレッドの娘マチルダ。
マチルダは強烈な魅力を以て周囲を魅了していくのですが……。
本当に、どうなるのかまったく先が見えませんでした。
はじめはイサベラの危機にはらはらし、続いて名もなき青年の器に驚き、マチルダの動きから目を離せない。あっという間に読み切ってしまいます。
「女は天と夫(もしくは親)に服するもの」という妃の考え方に「そういう時代、そういう世界なのだな」と思ったり。昔の中国でしたっけ、生まれては父に従い、嫁しては夫に従い、老いては息子に従うのが女だって考え方。
オトラント城の舞台はヨーロッパにある架空の城ですが、どこも女の扱いってそんなもんなんだなあとも思います。
[第4巻 ゴシック] オトラント城 / 崇高と美の起源 (英国十八世紀文学叢書)
- ホレス・ウォルポール(オトラント城)_::_エドマンド・バーク(崇高と美の起源)
- 指定なし
- 3360円
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2013/03/13
12粒の宝石姫―陽が導く―
女神と男神の賭けのために、愛の試練を与えられた、宝石と同じ名前を持つ姫君たちの奮闘記後編です。「12粒の宝石姫 -陽が導く-」。
前編に引き続き、今回はルビー、ペリドット、サファイア、オパール、トパーズ、ターコイズの物語と、全員の後日談として結婚式の様子が綴られます。
私が好きなのは二人。
まず、ペリドット。納得のいかない結婚から逃れ真に愛する騎士見習いヘルマンと結ばれるため、生まれ育った屋敷を抜け出します。
無事にヘルマンの元に辿り着くも、彼が正式に騎士になるまでの3ヶ月間、厨房で男の子のふりをして過ごすことに。そのために美しい髪もばっさり切って、実によく働く彼女の姿に、素直に好感が持てます。
芯も強いしいい子だなあと。
次にオパール。こちらは、誰に対しても、その人が一番望むように振舞ってしまい、本当の自分を出せず悩むオパールのお話。
この、色々な姿を見せてくれるというのが、本物のオパールそっくりだと感じます。遊色効果といって、オパールはベースとなる色の上に虹色が躍っています。
余談ですが、巻頭に掲載されたレディ・オパールのイラストも好き。
自分の振舞い方に悩むなんて思春期っぽいと思いきや、意外と年いってるんですよ。それでも20歳前後だとは思いますが。
最後の後日談は、どれもこれも読んでてじーんと来ます。今までに出てきた姫君たちの幸せな様子が余すところなく綴られています。
尤も、ここを読む前にはぜひとも2冊とも揃え、12人全員の物語を読んでからにしてください。中古本だと、後編である本書から手に入れるなんてこともあるでしょうが。
12粒の宝石姫 -陽が導く-
前編に引き続き、今回はルビー、ペリドット、サファイア、オパール、トパーズ、ターコイズの物語と、全員の後日談として結婚式の様子が綴られます。
私が好きなのは二人。
まず、ペリドット。納得のいかない結婚から逃れ真に愛する騎士見習いヘルマンと結ばれるため、生まれ育った屋敷を抜け出します。
無事にヘルマンの元に辿り着くも、彼が正式に騎士になるまでの3ヶ月間、厨房で男の子のふりをして過ごすことに。そのために美しい髪もばっさり切って、実によく働く彼女の姿に、素直に好感が持てます。
芯も強いしいい子だなあと。
次にオパール。こちらは、誰に対しても、その人が一番望むように振舞ってしまい、本当の自分を出せず悩むオパールのお話。
この、色々な姿を見せてくれるというのが、本物のオパールそっくりだと感じます。遊色効果といって、オパールはベースとなる色の上に虹色が躍っています。
余談ですが、巻頭に掲載されたレディ・オパールのイラストも好き。
自分の振舞い方に悩むなんて思春期っぽいと思いきや、意外と年いってるんですよ。それでも20歳前後だとは思いますが。
最後の後日談は、どれもこれも読んでてじーんと来ます。今までに出てきた姫君たちの幸せな様子が余すところなく綴られています。
尤も、ここを読む前にはぜひとも2冊とも揃え、12人全員の物語を読んでからにしてください。中古本だと、後編である本書から手に入れるなんてこともあるでしょうが。
12粒の宝石姫 -陽が導く-
- 剛しいら
- エンターブレイン
- 609円
misano414 at 06:00|Permalink
2013/03/10
12粒の宝石姫-月は惑わす-
女神と男神の小さな言い争いから始まった「女は愛の試練に耐えうるか」という賭け。勝手にそれに挑むことが運命づけられてしまった12人の乙女の物語です――「12粒の宝石姫-月は惑わす-」。そのうち6編がこの本には収録されています。連作短編なので一つ一つの話は独立しておりますけれど。
誕生石をモチーフにしてあり、本書にはガーネット、アメシスト、珊瑚、ダイヤモンド、エメラルド、パールの6人の物語が登場します。こういう宝石に仮託した物語って大好き。もともと宝石が好きというのが大きいのでしょうけれど、本編が始まる前に掲載されたそれぞれの姫君のイラストもまた、美しく、私は大好きです。
さて、肝心の物語ですが、すべてがお姫様かと思えばそうでもなく、割とバラエティ豊かな印象。特に気になるのは珊瑚とダイヤでした。
珊瑚は平安時代を彷彿とさせる、昔の日本を舞台にした物語。帝の子でありながら打ち捨てられ、乳母と二人で貧乏に暮らす珊瑚の姫君のお話です。
何となく、源氏物語の末摘花を思い出しました。尤も、あちらは醜女だったという落ちがありますけれど。
ダイヤは、貧しいバレリーナが女優として成功した後に出会う不思議な富豪との物語。
若く聡明で見目麗しい若者に出会い、彼に求愛されるダイヤですが、それを一度は突っぱねる誇り高さ(あるいは真直ぐな正直さ)にとても共感出来ます。それに、ダイヤ自身、貧しい頃を忘れずに傲慢にならなかった点がとても魅力的です。全く傲慢でないとは言い切れませんが、その程度の傲慢さは誰にだってあるでしょう。
すべてハッピーエンドなので、まるで御伽話を読んでいるかのような感覚。巻頭に添えられたイラストも含めて、心地よい夢の世界を漂っているかのような一冊でした。
12粒の宝石姫 -月は惑わす-
誕生石をモチーフにしてあり、本書にはガーネット、アメシスト、珊瑚、ダイヤモンド、エメラルド、パールの6人の物語が登場します。こういう宝石に仮託した物語って大好き。もともと宝石が好きというのが大きいのでしょうけれど、本編が始まる前に掲載されたそれぞれの姫君のイラストもまた、美しく、私は大好きです。
さて、肝心の物語ですが、すべてがお姫様かと思えばそうでもなく、割とバラエティ豊かな印象。特に気になるのは珊瑚とダイヤでした。
珊瑚は平安時代を彷彿とさせる、昔の日本を舞台にした物語。帝の子でありながら打ち捨てられ、乳母と二人で貧乏に暮らす珊瑚の姫君のお話です。
何となく、源氏物語の末摘花を思い出しました。尤も、あちらは醜女だったという落ちがありますけれど。
ダイヤは、貧しいバレリーナが女優として成功した後に出会う不思議な富豪との物語。
若く聡明で見目麗しい若者に出会い、彼に求愛されるダイヤですが、それを一度は突っぱねる誇り高さ(あるいは真直ぐな正直さ)にとても共感出来ます。それに、ダイヤ自身、貧しい頃を忘れずに傲慢にならなかった点がとても魅力的です。全く傲慢でないとは言い切れませんが、その程度の傲慢さは誰にだってあるでしょう。
すべてハッピーエンドなので、まるで御伽話を読んでいるかのような感覚。巻頭に添えられたイラストも含めて、心地よい夢の世界を漂っているかのような一冊でした。
12粒の宝石姫 -月は惑わす-
- 剛しいら
- エンターブレイン
- 588円
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2013/02/17
道徳という名の少年
ジャングリン(道徳という意味)と名付けられた少年の一族にまつわる連作短編小説です。「道徳という名の少年」。
はじめはジャングリンの母たちの物語、次はジャングリン本人、その次はジャングリンの子、さらにその子というふうに、大体直系です。最後は違いましたけれど。
次のお話に進むと、前のお話での主人公を客観的に捉えた描写があり、その連鎖がこの一冊の本の魅力だと感じています。
最も私が好きなのは『Ⅰ、2、3、悠久』。町一番の美女が産み落としたそれぞれ父の違う4姉妹のお話です。
父親の面影など一切垣間見えないほど母親にそっくりの姉妹は皆美女になり、娼婦になります。それを作中では非道徳と表現しています。
一応、悠久については「娼婦になるのを嫌がった」という記述がありますが。
しかし最終的に悠久は、母が最後に産み落とした男の子と愛し合い、ジャングリンを産むのですよね。それこそが一番の非道徳のような気がします。
実際、次の物語『ジャングリン・パパの愛撫の手』では、愛するジャングリンの両親が血を分けた姉弟であることを知った雑貨屋の娘がショックのあまり口をきけなくなりますし。
どうも、母違いならいいけれど父違いは駄目だろうという筋の通らない道徳概念が私の中にはあります。
道徳という名の少年
はじめはジャングリンの母たちの物語、次はジャングリン本人、その次はジャングリンの子、さらにその子というふうに、大体直系です。最後は違いましたけれど。
次のお話に進むと、前のお話での主人公を客観的に捉えた描写があり、その連鎖がこの一冊の本の魅力だと感じています。
最も私が好きなのは『Ⅰ、2、3、悠久』。町一番の美女が産み落としたそれぞれ父の違う4姉妹のお話です。
父親の面影など一切垣間見えないほど母親にそっくりの姉妹は皆美女になり、娼婦になります。それを作中では非道徳と表現しています。
一応、悠久については「娼婦になるのを嫌がった」という記述がありますが。
しかし最終的に悠久は、母が最後に産み落とした男の子と愛し合い、ジャングリンを産むのですよね。それこそが一番の非道徳のような気がします。
実際、次の物語『ジャングリン・パパの愛撫の手』では、愛するジャングリンの両親が血を分けた姉弟であることを知った雑貨屋の娘がショックのあまり口をきけなくなりますし。
どうも、母違いならいいけれど父違いは駄目だろうという筋の通らない道徳概念が私の中にはあります。
道徳という名の少年
- 桜庭一樹
- 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 1365円
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2013/02/05
かるいお姫さま
魔女の呪いによって重さを失ってしまったお姫さまの童話『かるいお姫さま』と、夜を知らずに育った少年と昼を知らずに育った少女が織りなす『昼の少年と夜の少女』の2編が収録されています。
『かるいお姫さま』、はじめは物理的な重さだけを持たない呪いだと思っておりましたが、なかなかどうして、心理的な重さも持たないという呪いでした。
常に軽い笑いに満ち溢れたお姫さまは、そのまま17歳まで育ちます。重さがないので、ちょっと放り投げるとすぐに天井やあらぬところまで飛んで行ってしまう彼女にとって最大の敵は風ですが、一方で水中だと自由自在に動くことが出来るというのです。
そんな折、王子様と出会い、彼の犠牲を通してお姫さまは「重さ」を学んでいく……。
重さがないなんて、純粋にユニークな話です。
そして外から与えられた水の中で自由であれば、内からわき出す水ならもっとよい結果をもたらすであろうと、姫に涙を流させようと苦心する周囲も滑稽に映ります。
『昼の少年と夜の少女』は、見事な対比の物語。
それぞれ、初めは夜と昼をとても怖がっているのだけれど、ひょんなことから出会った二人は足りない部分を補いあいながら、遂には魔女ワトーを斃します。
それぞれの得意とすること、気性、魔女が与えた教育、すべてが対照的な二人は、結婚することで完全な人間になったのではないでしょうか?
かるいお姫さま
『かるいお姫さま』、はじめは物理的な重さだけを持たない呪いだと思っておりましたが、なかなかどうして、心理的な重さも持たないという呪いでした。
常に軽い笑いに満ち溢れたお姫さまは、そのまま17歳まで育ちます。重さがないので、ちょっと放り投げるとすぐに天井やあらぬところまで飛んで行ってしまう彼女にとって最大の敵は風ですが、一方で水中だと自由自在に動くことが出来るというのです。
そんな折、王子様と出会い、彼の犠牲を通してお姫さまは「重さ」を学んでいく……。
重さがないなんて、純粋にユニークな話です。
そして外から与えられた水の中で自由であれば、内からわき出す水ならもっとよい結果をもたらすであろうと、姫に涙を流させようと苦心する周囲も滑稽に映ります。
『昼の少年と夜の少女』は、見事な対比の物語。
それぞれ、初めは夜と昼をとても怖がっているのだけれど、ひょんなことから出会った二人は足りない部分を補いあいながら、遂には魔女ワトーを斃します。
それぞれの得意とすること、気性、魔女が与えた教育、すべてが対照的な二人は、結婚することで完全な人間になったのではないでしょうか?
かるいお姫さま
- ジョージ・マクドナルド
- 岩波書店
- 672円
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2013/01/16
想ひ草
老いを前にした女性たちの物語を集めた短編集「想ひ草」を紹介します。
「露草」「貴船」「錦木」など全8編が収録されています。
老いを前にした女性たちが主役ということで、どの作品も静かな色香を感じました。色香といいますか、女性の匂いといいますか。ある意味で憧れの対象です。と同時に、将来的にはこのような女性になれるのだろうかと思ってしまうほどに。
憧れの対象だけではなく、たとえば「錦木」の美沙は、むしろそこらへんによくいる女の典型だからこその腹立たしさを感じますけれど。
それぞれの話を見ていくと、私は最初の「露草」とその次の「貴船」がとても好きです。
「露草」は、お手伝いの信代さんの一生がどうも引っかかるのです。よい意味で。そういう清々しい生き方を長く続けられてきたという事実に、惹かれるのです。本人は幸せと苦しみの二重であったでしょうけれど……叶わぬ恋を心に仕舞い、ずっと相手に尽くす、とても憧れますし私には真似の出来ないことです。
「貴船」は、流されるままに生きてきたはずの千津が、最後にはまるで生まれながらの女将かのように堂々と振る舞う様に、ああこういう物語があるのかと素直に感嘆しました。こういう物語を書いてみたいと、そしてこれからの千津に待っているだろう未来をあれこれ夢想するという楽しみも残されました。
想ひ草
「露草」「貴船」「錦木」など全8編が収録されています。
老いを前にした女性たちが主役ということで、どの作品も静かな色香を感じました。色香といいますか、女性の匂いといいますか。ある意味で憧れの対象です。と同時に、将来的にはこのような女性になれるのだろうかと思ってしまうほどに。
憧れの対象だけではなく、たとえば「錦木」の美沙は、むしろそこらへんによくいる女の典型だからこその腹立たしさを感じますけれど。
それぞれの話を見ていくと、私は最初の「露草」とその次の「貴船」がとても好きです。
「露草」は、お手伝いの信代さんの一生がどうも引っかかるのです。よい意味で。そういう清々しい生き方を長く続けられてきたという事実に、惹かれるのです。本人は幸せと苦しみの二重であったでしょうけれど……叶わぬ恋を心に仕舞い、ずっと相手に尽くす、とても憧れますし私には真似の出来ないことです。
「貴船」は、流されるままに生きてきたはずの千津が、最後にはまるで生まれながらの女将かのように堂々と振る舞う様に、ああこういう物語があるのかと素直に感嘆しました。こういう物語を書いてみたいと、そしてこれからの千津に待っているだろう未来をあれこれ夢想するという楽しみも残されました。
想ひ草
- 鳥越碧
- 講談社
- 1575円
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